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開校ごあいさつ

「何も失っていない浪江町」をめざして

 「なみえ復興大学」に来ていただき、ありがとうございます。
故郷・浪江町は、この度の震災・津波、そして核災によって瀕死の姿を晒して悲鳴を上げ続けています。しかし、町の辻にひっそりと咲く草花が、草むらに覆われた野仏の朽ちかけた頬が、倒壊した家屋の木板に刺さる剥き出しの釘が、がれきの中に挟まるプラスチックの三輪車が、消される運命の小学校の黒板に永遠に刻まれるメッセージが、神社の割れた碑銘にかかる砂粒の一粒ひとつぶが、人々のこころのカタチが、浪江をかたどるあらゆる人とモノの稜線が共鳴して、見せかけの文化を拒絶した神聖な空間をつくり出しています。
  浪江町はもとより全被災地は、「復興」という名の下にあらゆる叡智を結集して、人間の本性としての「生きる」力を信じ、復興の象徴としての広島・長崎の次に名を連ねる日がくるのです。それが歴史の正しい継承の仕方です。
  そのために、「なみえ復興大学」はどれだけのパトス(力)となれるかはわかりませんが、なろうとする人たちが集うトポス(場所)として、あり続けたいです。現時点の本大学は不完全ですが、可能性は十分に用意されています。本大学の「誰もが先生となり、学生となる」という基本方針に表れています。これは何を意味するのか。現時点での復興の障害となっている専門家主導の復興計画ではなく、浪江町民が復興の主体として関わることです。しかし、復興は専門家なくしてはできません。専門家は私たちの復興のために、その専門性をいかんなく発揮していただきたいのです。そのために私たちが理想とする専門家としての資質を3つ提示します。これは現在の専門家への批判ではありません。私たちの責任を全うするために、専門家の協力が必要なのです。​



新専門家の条件
 1. 素人と言語を共有する
 2. 素人と思考を共有する
 3.謙虚さをもつ

 

  専門家という名称は、これまで明確ではありませんでした。3.11がこれを明らかにしました。専門家は個々の専門分野の研究成果を述べるだけでは社会との責任は果たしたことにはならないのです。3.11以降、科学者に対する信頼は失墜したという報告がありました。社会における専門家とはどうあらねばならないのか。もちろん、すでに気づいている専門家もいらっしゃいます。大いなる救いです。専門家は本来の専門的な研究にまい進されつつ、謙虚さを兼備して初めて、専門家は私たちの信頼を得ることができます。3・11からの2年間で、その重要性は日増しに大きくなっていますが、確たる動向は未だに見られません。本大学にご協力いただく専門家は、「新専門家の条件」を満たす専門家を迎えます。
  本大学は次の提案をします。



復興メディエーター制度の設立
  従来の専門家たる所以か、遅々とした対応を待っていられないのは、一日も早い復興を望む被災地を考えれば喫緊の課題です。そこで、本大学は、専門家と私たちの間に復興メディエーターというポジションを提案します。上記の新専門家の条件を満たせない専門家と私たちの間を第三者として介在し、それぞれの職分を最大限に活かして復興に貢献する重要な仕事です。これを制度化できれば、今後の災害からの復興はこの度の復興より短期的に、より効果的なものとなるでしょう。そのためには、私たちと専門家、行政を含めた横断的な協力がなければ達成できません。しかし、これこそが復興体制の原点です。
 また私たちも、「素人のプロ」にならなければなりません。素人のプロとしての条件は、浪江町のあらゆるアイデンティティを考え、学ぶという姿勢をもつことです。ただ、学習することは大事ですが、「にわか専門家化」することは問題解決を遠ざけることとなり、何より専門家の尊厳を傷つけることになります。にわか専門家は本来の専門家間の問題を素人間の「代理戦争」へと移行するだけで、取り返しのつかない素人間の分断を残すだけです。この最悪の不幸を回避するためにも、双方の尊厳を認めつつ協調する関係をめざします。こうして、専門家と私たちの双方が果たすべき責任を復興に向けてインテグレート(統合)するシステムが完成された時、「何も失っていない浪江町」が現れます。そして、「復興とは何なのか」という答えが待っています。
 これこそが、科学文明に追従した現代に対して警鐘を鳴らす資格を与えられた浪江町が、日本のみならず世界に発信できる唯一の復興の仕方であり、理念です。浪江町は確かに何かを失いました。しかし、何も失っていないと自ら信じることができれば、復興は成し遂げることができると信じます。



なみえ復興大学からのお願い
 現時点の本大学が取り組めることはわずかです。本大学の主旨をご理解いただける方で、このようなことをやりたい(学部設立)などのご意見・ご希望がありましたら、ぜひご連絡いただきますようお願いいたします。むしろ、皆さんの様々な思いでつくり上げていくことが本意です。ご意見・ご要望に対しては誠実に対応し、そのプロセスはオープンにしていきます。

  また、本大学はもとより余裕のないところからのスタートでした。しかし、ご賛同をいただいた方々のおかげで、これまでも有意義な活動を行うことができました。そして、それらが有機的に関わり、浪江町復興のための新たな段階を迎えつつあります。本大学は、社会的な認知としての法人化はめざしています。そのためにも、本大学の主旨をご理解いただき、皆様のご寄附・ご支援をお願いいたします。

 最後になりましたが、このホームページはかながわ東日本大震災ボランティアステーションのホームページお助け隊のみなさんのご協力をいただき、立ち上げることができました。謹んで感謝いたします。



  2013年6月

                                                             なみえ復興大学準備室長
                                                              原田 洋二

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